概要
はてなハイクの五人が紡ぐ、挿絵付短編小説集。
紙の本と電子の本、同時発売。
- 値段 | 本 350円(税込)、 電子書籍 200円
- 文庫 | 160P、モノクロ
- 本の販売 | COMIC ZIN (店頭、もしくは通販にて御購入いただけます)
- 電子書籍 | Amazon(Kindle)
- 2013年7月14日 発売
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(背景画像/ dj_red)
まえがき
「んんーっ」と彼女は椅子を軋ませながら伸びをした。右手には電子書籍端末を持ったまま。お気に入りの玩具を手放さない子供みたいだなと思う。その端末は彼女の玩具ではなく私の玩具なのだけれど、気に入っている様子なので、私はほんのり微笑ましいような気持ちになりながら彼女を眺めている。
彼女は鼻を鳴らすように息をつき、へなっと肩の力を抜いて腕を下ろす。その途中でガスッとカウンターテーブルの端に手をぶつけた。端末をカウンターの上に置き、「いた……」と小さく呟いて、ぶつけた手をもう片方の手でさする。
私が思わず口元を笑みにすると、彼女はむくれたように私を睨みつけてきた。私は目を逸らし、誤魔化し気味に手近にあったグラスをグラス磨き用のクロスで拭いてみたりする。手をぶつけたのは別に私のせいじゃないよね、とグラスにテレパシーを送ってみたりもする。
この店はビジネス街の端にあるため、休日は閑散とすることが多かった。ランチタイムも過ぎてしまったので、店内には私と彼女しかいない。彼女の前にあるカフェオレはあまり減った様子もなく、どうやら彼女は長居するつもりのようだった。今日は暇らしい。
「クレイジーキルトってキルト?」
彼女は端末のタッチパネルに指を滑らせながら不思議なことを言った。
「……ん?」
私はグラスを置いて、彼女の手元を覗き込む。
「これ」
彼女は私にも画面が見えるようにカウンターの上に端末を置いた。
「ああ……」
画面には前にダウンロードしていた本の表紙が映っていた。「クレイジーキルト」というのはその本のタイトルだ。
「形とか色とか模様とか、全然違う切れ端を繋ぎ合わせて、一枚の布にしたのがクレイジーキルト……て呼ぶらしいよ」
私はタッチパネルに指を滑らせて、本文のページを表示させながら言った。「ふうん」と呟いた彼女が、続けてさらにページを捲った。
「オーナーはこの本読んだんだよね?」
彼女は画面に目を落としたまま聞いた。
「うん、読みましたよ」
「どんな話なの?」
「えっと、それは……」
私は答えようとしたけれど、まえがきの部分を読んでいる彼女を見て、思い直して口を閉じた。彼女の目の動きをぼんやり追いながら、まえがきの内容を思い起こす。
クレイジーキルト。はてなハイクというミニブログ内で集まった五人よる挿絵付短編小説集。
もふやま、西直、という二人の物書き。
背景色、dj_red、戯壇、という三人の絵描き。
二人の物書きが二編ずつお話を書いて、それに対して三人の絵描きが挿絵をつけていく。そのお話ごとに物書きと絵描きの組み合わせが替わる。
メンバーの五人はそれぞれ一つずつお題を持ち寄り、物書きの二人はその五つのお題を受け持った二編の中に溶け込ませている。誰が何というお題を出したのかは、あとがきの中で明かされる。
――どんなお題でどこに溶け込んでいるのか? そんなことを考えながら読み進められるのもご一興かと存じます。
「ま、とりあえず読んでみたら」
彼女がまえがきを読み終えたころに、私はそう言った。彼女はちらりと私のほうに目を向けて、ふっと小さな笑みを唇にのせると、電子書籍端末に視線を戻した。
「ん、そうする」
すっと彼女の人差し指がタッチパネルの上を滑り、本のページがまた一枚捲られる。
(こちらは、「クレイジキーキルト」収録の"まえがき"の転載です)
作品紹介
- 揺れる左袖にとどくまで
- 君、今日から首ね!
- 単眼少女と白い猫
- 僕と私の一人旅
四編の作品
オリジナルの四編の作品から、この本は構成されます。
二人の物書きが二編ずつお話を書き、三人の絵描きが挿絵をつける。
そして、お話ごとに物書きと絵描きの組み合わせが替わります。
五つのお題
作家の五人はそれぞれ一つずつお題を持ち寄りました。
それを物書きの二人は、受け持った二編の中に溶け込ませています。
「誰が何というお題を出したのか?」、これはあとがきで明かされます。
見知ったあの子、一冊の本
はてなハイクの皆様には見慣れた…見知ったあの子が、ひょっこり顔を出したりします。
それに、全作品を通し、ある一冊の本がちらりちらりと顔を覗かせます。
作品同士を繋ぐ糸のように。
物書き
絵描き
購入方法
紙の本と電子書籍、いずれかで御購入いただけます。
紙の本
COMIC ZINにてお買い求めいただけます。
通信販売
店頭販売
電子書籍
Amazonからお買い求めいただけます。
お買い上げいただいた書籍は、Kindle Paperwhite、iPhone、iPad、Android等で御覧いただけます。
FAQ
- Q: Amazonということは、Kindle端末がないと見られませんか?
- A: iPhone、iPad、Androidには、それぞれ専用のKindleアプリがあり、そちらからご覧いただけます。
(ただし、どうもiOS版については一部の表示が想定通りに出ない部分がありそうです。このあたりは調査中です)
- Q: 本と電子書籍、内容に差はありますか?
- A: 物語にかかわる部分(挿絵・本文)は、まったく同じです。
一部違いとして、電子の本はハイパーリンクを活かすため、目次など幾つかのページをテキストに置き換えてます。
あと、電子書籍はレイアウトが可変であるため、見る筐体や設定により、改行位置などが変化します。
メッセージ
※ 参加メンバによるメッセージカード一揃え。クリックで大きな画像、見られます。
「挿絵付小説は、おもしろい」
これが、前作「おはようお姉さん」を作った時に得た、気付きでした。
作るのが面白いし、できあがったものも、また、楽しいものでした。
「この路線をふまえて、もう一歩進めてみたい」
これが、始めた契機。
今作は挿絵付短篇小説集です。
四編のオリジナル作品からなります。
はてなハイクゆかりとはいえ、作品自体は、予備知識無く楽しむことができます。
一方で、はてなハイクを御覧の皆様には「ニヤリ」とする仕掛けがございますよ。
電子書籍について。
前作は「紙の本」に拘ったのですが、「電子書籍版出さないの?」とのお声をいただきました。
その御声にお応えする形にできたと思います。
今作は紙の本と電子の本、両方、ございます。
どちらも手ぬかりなく手を抜かず、仕上げております。
御希望に沿う方を、お選びください。
すこしだけ、振り返り。
実のところ、この企画は年初に立て、お声がけもその頃なのですが…気付くと季節は、既に夏。
「あれ…?」
と思う間もないくらい、前作を超える色々がありました。キャパ振り切れるくらい。
なんとかここまで辿りつけたのは、今回参加いただいた皆様の助力にほかなりません。
dj_redさんには、カバー・表紙をお願いしたのにとどまらず、最終的にデザイン全般を担っていただきました。
縦横無尽でした。
1ファンとして見ていても楽しかったし、なによりも頼もしかったです。
もふやまさんには、そもそも最初に「小説家」としてオファーした時点でムチャぶりで、快く受けていただいたのを感謝していま
す。
そして、戴いた二編が今手元にあって、「お願いして良かった!」って、思います。
背景色さんには、積極的に意見言っていただいたり、励ましていただいたり、パンダだったり、挿絵以外でも楽しい絵で和ませて
いただきました。
今作でもその魅力は遺憾なく発揮されまくっております。乞うご期待。
そして、西直さん。この作品の契機になった方を誘わないわけがない。
出来上がった原稿は、依頼頁数の四倍というK点越え。前作の二倍を上回る新記録樹立です。おめでとうございます。
作品世界の中に入って、ぞんぶんにフラリフラリしていただけること、請け合いです。
皆様、ほんとに、ありがとうございました。
あと、わりと突飛なことを言ったり、テンパッたりしてしまい、申し訳ないです。
それでは、最後に。
この作品は、私が楽しいと思った「挿絵付短編小説集」という企画を、みんなで考えを持ち寄り、手を尽くして形にしたものです。
宜しければ、手にとっていただけると嬉しいです。
そして、手にとった人にとって良いものであれば幸いです。
2013.07.14
戯壇(gedan/OhayouGirlProject)
dj_redio特別編(本の御紹介)
dj_redio特別編として、dj_redさんとgedanの二人、「クレイジーキルト」について語りました!
各エピソードごとのmp3をご用意いたしましたので、お聞きくださいませ。